私の父は建設会社を経営していて、多くの鳶さんや土工さんの面倒を見ています。月に1度の給料日には、職人さんたちを何人かひき連れ、地元の歓楽街を飲み歩きます。席に座るだけでチャージ料が取られ、職人さんたちを連れているのでその分もかかります。必ず新しいボトルを入れ、女の子たちにも最低1杯は御馳走しますから、1つのお店でかなりのお金を使います。しかもそれが本当にせっかちで、1つのお店に30分と居ないのです。ほとんど、お金を払うためにお店に行くようなもの。数軒お店を回る途中で、しっかり仕事関係と思われる人と会って、謎の封筒などを渡しているので、大きな声では言えないような仕事もしているのかなと、息子ながら思っているのですが。
そんな父がいつものように給料日にお店をハシゴしていると、その日は珍しく前の店で飲み過ぎたようです。次の店に向かう途中、父はビルの入口の自動ドアのガラスに、思いっきり激突してしまいました。いつもついて周るだけだった私や職人さんたちはびっくりして、皆で父に駆け寄りますが、父はふらふらになりながらも、ビルの中のお店を目指そうとします。流血もガラスが割れたりもしていませんが、おでこのあたりには大きなたんこぶが。綺麗に磨き上げられた自動ドアのガラスは、確かにまるで何もないように見えました。前に進もうとする父に手を貸す者や、自動ドアのガラスに悪態をつく者もいて、ビルの前を通りかかる人たちも驚いて足をとめていました。
結局その日はそこでお開きとなり、大事をとって父と私は帰宅しました。自宅リビングでおでこを氷嚢で冷やしながら、父はリビングの窓ガラスに映る自分の姿を見ながら、母に怒られていました。これに懲りて今後は、もうちょっと落ち着いて、職人さんたちとの懇親を深めるなり、飲みに行くなりして欲しいと思います。