ファミレスにあるガラスの仕切りの重要性

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昔ながらの喫茶店が好きだ。そこは地下にあって携帯の電波も届かない。一杯のコーヒーを入れるのに十分以上かけて落としていく。ナポリタンが名物で、殆どの客がこれかただ焼いただけのトーストを注文する。店内には間接照明しかなく、薄暗いため、本を長時間呼んでいると疲れる。そして本を読んでいると、ほどよい暗さとあまり聞いたことのないクラッシックのせいで眠りに誘われてしまう。…そんな昭和ノスタルジーな喫茶店が近所にあったのだが、最近店主が老齢のため閉店してしまった。私は書き物の仕事をしているので、その店にはかなりお世話になっていたのだが、貴重な仕事場兼息抜き場を失ってしまったのである。

家で仕事をしているとどうしても雑用を見つけてしまいがちである。特に書き物がうまく進まなかったりすると、気づくと普段はやらないふすまやフローリングの溝のゴミを爪楊枝でちくちくと掘り出していたりする。人はそれを現実逃避と呼ぶ。これではいかんと、新たな仕事場を求めに街を彷徨ってみたものの、ちょうどいい塩梅の店が見つからない。

そういうわけで、最近では普通のファミレスで妥協してしまっている。昭和ノスタルジーな店に比べたら客層も騒々しいけれど、ドリンクバー飲み放題なのと値段が手ごろなのは有難い。それに席と席の間はガラスの仕切りがついているところが殆どなので、思ったよりもプライバシーが確保されるのだ。このガラスの仕切り、あるのとないのとでは全く違う。書き物の最中にふと目を上げたときに他の客と目が合って、それまで頭にあった文章が全て吹っ飛んでしまうということが、昭和ノスタルジーな喫茶店ではよくあった。だけどファミレスはいい感じに仕切られているので、音さえシャットダウンしてしまえば視界は気にならなくなる。

とはいえ、すっかり酸化して酸っぱくなったドリンクバーのコーヒーを飲みながら、やっぱりあの店が恋しいと思うのだった。